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「そのクリップ、外した方がやりやすくないですか?」 〜クリップにみる人間の制約と可能性

これは、あるマネジメント研修の現場で、

私が受講者の行動を見ながら思わず発した一言です。


今回はこの一場面を通じて、人が無意識にとらわれている制約と、

その中にある可能性について考えてみたいと思います。

 

弊社では「インバスケット演習」という、

マネジメント力を評価・開発する研修を行っています。
この演習では、未処理の案件(例えば上司からの指示、部下からの相談、

顧客からのクレームなど)が書かれたメールを読み、

制限時間(90120分)の中で、的確な判断と対応を行います。

想定上、演習後には数日間の出張が控えており、

メールによる指示だけで自分が不在の間も

組織が円滑に運営されるように取り計らう必要があります。

 

このようなシチュエーションを通じて、

受講者のマネジメント能力やリーダーシップの資質を定量的に測ることができます。

主に、昇進・昇格候補者の能力診断や、既任マネージャーの能力開発の一環として活用されています。

 

研修当日、受講者が演習に取り組んでいる間、

私はその様子を観察していました。


演習資料は、写真のように30枚弱の印刷物がひとまとめに

クリップで留められた状態で配布されます。

加えて、メールへの返信を記入する「案件処理用紙」もあります。

 

もしあなたがこの演習に取り組むとしたら、

最初にどのような行動を取るでしょうか?

 

私なら、まずクリップを外します

クリップを外し、全体の構成を確認しながら、

次の情報を整理します:

 

・企業や店舗に関する基礎情報

・未処理のメール(およそ20件)

 

その上で、

・重要な情報とそうでない情報を見分け、

・メールを優先順位ごとに分類し、対応順を決めていきます。

 

こうした作業をスムーズに進めるためにも、

クリップを外した方が効率的だと私は考えています。

 

演習終了後、受講者同士でアウトプットを共有しながら、

「何がベストな対応だったのか」「なぜそう考えたのか」を議論します。
この過程で、受講者は

「マネジメントのあるべき状態」や

「自身のマネジメント上の強みや啓発点」に気づいていきます。

 

議論の前に私は一つ、問いかけをしました。
「クリップ、外した方がやりやすいと思いませんでしたか?」

 

すると、意見は二つに分かれました。

 

1つは「留めたままの方がバラけずに見やすい」と意図してそうした人。

割合としては全体の1割ほど。
残りの9割は

「特に深く考えず、なんとなくそのまま使っていた」という人たちでした。

 

もちろん、仕事の進め方に正解はありません。
個々人のスタイルや得意な方法があって良いですし、
「必ずクリップを外すべきだ」と言いたいわけではありません。

 

しかし大切なのは、「自分で考えた上で、その方法を選んだかどうか」です。

・どうすれば効率的に全体像をつかめるのか?

・どの順番で処理すればミスが少ないのか?

・今の方法は、本当にベストなのか?

こうした問いを持つことは、仕事の質を高めるための第一歩です。

  

「クリップを外さなかった方」の行動から、

私はある人間の制約を感じました。

 

それは、

「状況の制約を変えることなく、与えられた環境の中で

努力することを優先してしまう」

という姿勢です。

 

つまり、

・その仕事が本当に必要なのか?

・もっと効率的なやり方は何か?

・そもそも改善や削減の余地はないのか?

という視点を持たずに、与えられたタスクをひたすら真面目にこなすという姿勢。
これでは、有意義な時間の使い方も、組織の生産性も望めません。

 

クリップは、目の前の小さな制約です。
ですが、それはあなた自身が日々直面している

「慣習」や「思い込み」の象徴かもしれません。

 

今のやり方で本当に効率的なのか?
もっとシンプルに、もっと楽にできる方法はないか?

 

あなたの会社にも、あなたの仕事にも、

見えないクリップ

がきっとあるはずです。

 

そして、クリップを外すことは、実はとても簡単です。
簡単だからこそ、気づきにくく、後回しにされがちです。

けれど、思い切って一つのクリップを外すだけで、

・仕事がスムーズに回り始める

・本当にやるべきことに集中できる

・仕事が楽しくなる

 

そんな変化が起きるかもしれません。

 

まずは、あなたの「当たり前」に目を向けてみてください。
そして、最初の一歩として
目の前のクリップを、外してみてはいかがでしょうか?

 

文責:松本宜大

 

※インバスケット演習を含むマネジメント研修を6月に開催予定です。

詳細・お申込みはこちらをご参照ください。